和歌山ALS訴訟のことが、何度か過去の記事に記載がありましたが、詳細を載せている記事はないので転載します。

 

2人世帯のALS障害者のヘルパー時間数裁判で和歌山市に1日21時間以上を命じる
市は上告せず判決確定

和歌山市のALS障害者(老夫婦2人世帯)が起こしていた裁判で、和歌山地裁は、介護保険(3.5時間)と障害のサービス(17.5時間以上)をあわせて1日21時間以上にするように、という判決を出しました。(現状は介護保険と障害のサービスをあわせて1日12時間)。双方上告せず判決が確定しました。人工呼吸器利用者で吸引が24時間にわたって度々必要など24時間のすぐ側での見守り待機を含めた介護が必要と誰もがわかる障害で、制度空白時間はヘルパーがそのままボランティアとして介護を行っていました。
この判決が全国の市町村に影響をあたえる可能性があります。例えば24時間人工呼吸器利用者で2人世帯の場合は、同程度の1日21~24時間のヘルパー時間数を決定するようにまず市町村に申請をしてみてください。(1人暮らしなら24時間の申請を)。市町村が十分なヘルパー時間数を決定しない場合は、不服審査請求や裁判を行なう方法があります

 

以下に、日弁連会長談話と新聞記事を掲載します。

ALS患者の介護支給量義務付け訴訟判決に関する日弁連会長談話
和歌山地方裁判所は2012年4月25日、筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」という。)患者が1日24時間の介護を求めていた裁判で、和歌山市に対し、介護保険と合わせて1日当たり21時間以上の介護支給量を義務付ける判決を言い渡し、和歌山市が控訴を断念したことにより、同判決が確定した。
同判決は、市町村は支給決定に際し、障がいのある人ひとり一人の個別具体的な支援の必要性を考慮するべきとの基本的な考え方を示し、見守りを含めた介護の必要性やALSという疾患の特性も踏まえ、1日当たり8時間余りという従前の支給決定を違法とした。

憲法に基づく基本的人権として、重度の障がいのある人も、障がいの有無により分け隔てられず地域で自立した生活を営む権利を有している。
しかし、現在、十分な介護支給量が保障されず、自立生活を送れずにいる障がいのある人、難病患者が全国に多く存在する。特にALS患者等の医療的ケアを要する者は、公的介護の貧困のために人工呼吸器の装着をためらい、あるべき命を落とす者も少なくない。必要な介護時間の公的な保障は、このような者らが尊厳ある「生」を選択するための前提条件である。
本判決は近時の東京地方裁判所平成18年11月29日判決及び平成22年7月28日判決(第一次・第二次鈴木訴訟判決)、大阪高等裁判所平成23年12月14日判決(石田訴訟判決)等でも示された、市町村は障がいのある人や難病患者の個別事情に則した十分な介護支給量を保障すべきとの法解釈を改めて確認したが、かかる法解釈は既に法理として確立したといえる。
当連合会は、2011年10月7日、第54回人権擁護大会において、「障害者自立支援法を確実に廃止し、障がいのある当事者の意思を最大限尊重し、その権利を保障する総合的な福祉法の制定を求める決議」を採択し、障がいのある人の地域での自立生活を可能とするための支援を量的にも質的にも保障することを強く求めた。更に、2012年2月15日、「障害者自立支援法の確実な廃止を求める会長声明」を公表した。
当連合会は、改めて国に対し上記決議の実現を求めるとともに、何人も障がいの有無に関わらず地域で自立生活を営む権利を有していることを確認し、全ての人に十分な介護支給量が公的に保障される法制度の確立及び運用を国及び市町村に強く求めるものである。
2012年(平成24年)5月14日 日本弁護士連合会 会長 山岸 憲司

新聞記事より  和歌山・ALS介護訴訟:介護時間延長、市に命令 21時間以上に--地裁判決 (毎日新聞 2012年04月26日 大阪朝刊)

 

難病の筋萎縮(きんいしゅく)性側索硬化症(ALS)の70代の男性患者=和歌山市=が、市に1日24時間の介護サービスの提供を求めた訴訟で、和歌山地裁(高橋善久裁判長)は25日、現行の1日あたり約12時間から、21時間以上に延長するよう命じる判決を言い渡した。原告の弁護団によると、ALS患者を巡り、公的介護サービスの時間延長を認めた司法判断は初めて。【岡村崇】
判決によると、06年6月にALSと診断された男性は寝たきりの状態で、70代の妻と2人暮らし。左足小指など体の一部しか動かず人工呼吸器を着けている。今は公的介護に加え、妻とヘルパーのボランティアにより24時間態勢で介護をしている。
男性は、障害者自立支援法と介護保険による24時間の介護サービスを求めてきたが、市側は「24時間の介護は必要ない」として、約12時間のサービスしか認定してこなかった。
判決はまず、男性について「ほぼ常時、介護者がそばにいる必要がある」と認めた。そのうえで、(1)妻は高齢で健康に不安がある(2)男性の人工呼吸器が正常に動作しているか頻繁な確認が必要(3)流動食の提供に細心の注意が必要--などと指摘。「少なくとも1日21時間はプロの介護がなければ、生命に重大な危険が生じる可能性が高い」と結論付けた。
1日約12時間という市側の決定に関しては「妻が起床中は、一人で全ての介護をするべきだという前提で、裁量権の逸脱だ」と厳しく批判した。
男性は10年9月、別の患者の男性(当時70代、提訴後に死亡)とともに提訴した。判決は、遺族が引き継いだこの男性分を含め、慰謝料の請求は退けた。
高橋裁判長は昨年9月、男性の介護の緊急性を認め、介護時間を1日20時間に延長するよう仮に義務付ける異例の決定をした。しかし、大阪高裁は同年11月、この決定を取り消し、原告側が最高裁に特別抗告していた。
原告の男性は、和歌山市内の古い木造2階建て住宅に妻と2人で暮らす。6畳の居間のベッドに寝たきりで、左足の小指と眼球しか動かせない。人工呼吸器を着け、流動食を補給してもらい、公的サービスとボランティアのヘルパーから24時間態勢で介護を受けている状態だ。
しかし、介護ヘルパーの公的サービスは1日のうち12時間。残りは、同じヘルパーがボランティアで世話をしている。妻は足が不自由なうえ、高血圧で心不全を患っており、ボランティアがなければ、一人で介護をするのは難しいという。
例えば、男性が装着する人工呼吸器は昼夜を問わず、たんを取り除かなければならない。平均すると、30分で2、3回の吸引をしているという。
妻は人工呼吸器の状態などが気になり、ベッドの横に付き添って過ごすことが多いという。
男性がALSと診断されたのは06年6月。この年の12月ごろから寝たきりになり、妻は5年以上、家事と介護に1日の大半を費やす生活を続けている。
妻は判決後の会見で「夫にできるだけのことをしてあげようと介護を頑張ってきた。今回の判決は夫も喜んでくれていると思う」とほっとした表情だった。

 

■視点
◇行政に柔軟な対応要求
ALS患者への介護時間の延長を命じた今回の判決は、公的介護が不十分なために生命が危険にさらされないよう、行政側に柔軟な対応を求めたものといえる。日本ALS協会の金沢公明事務局長も「ALS患者には、24時間の介護が必要不可欠だ」と一定の評価をしている。
重い障害を抱える人に公費で介護を提供する「重度訪問介護」は、障害者自立支援法に基づくもので、具体的な介護の時間は市町村の裁量に任されている。
しかし、自治体間で運用に差があるうえ、財政支出を抑えるために上限を厳しくしている自治体もあるとの批判が、障害者団体などから出ていた。
介護時間の延長を巡っては、脳性まひの男性への介護を、1日18時間に延長するよう和歌山市に命じた大阪高裁判決(昨年12月)が確定しており、障害者への配慮を求める司法判断が続いている。

ALS介護訴訟:男性側弁護団、公的介護充実訴える /和歌山
毎日新聞 2012年05月02日 地方版
筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)の70代男性への介護サービスを1日21時間以上に拡大するよう和歌山市に命じた和歌山地裁判決に対し、控訴しないことを表明した男性側の弁護団は1日、同市に改善を促す声明も発表した。
和歌山市への要望は▽すみやかに原告に判決に従った支給決定をすること▽一人一人の事情を考慮した支給決定方法に改め、審査会を形骸(けいがい)化させず、機能させること--など。
弁護団は「家族の介護負担などを考慮し人工呼吸器を付けずに亡くなってしまう患者さんが7割いるといわれている」と指摘し、公的介護の充実を訴えた。