長野県信濃町での重度訪問介護の裁判事例の報告
重度訪問介護24時間支給決定により裁判終結
1. 自立するきっかけ・経緯
10年程前、ALSと診断され、小林さゆりさんの生活は一変した。東京でOLとしての生活を経て、エステシシャンとして長野市内で仕事をしていたが、病と向き合うため、上水内群信濃町の実家に帰郷。同居の弟さんはいたものの生活実態は別で、実質的には母と子2人だけの介護生活が始まる。
80歳を超える高齢の母にとって介護は肉体的、精神的にも限界を迎え、時には、さゆりさんを支えきれず、夜間放置の危険な状態もままならなかった。辛うじて介護保険サービスの利用(80時間)により、1日2回(午前10時・午後3時)の排泄介助のみの生活は母子共倒れの寸前であり、母を思う気持ちや、母を失い、いざとなってからでは遅いという現実が、さゆりさんを自立への道へ決心させる。
2016年、インターネットにて知り合ったC氏により介護保障協議会・全国広域協会を知り、相談に至る。
2. 支援を受け24時間公的介護が保障されるまで
2016年より自立生活を目指し、介護保障協議会ほか全国団体のアドバイスの元、公的長時間滞在型の介護保障を得るために行政と交渉(重度訪問介護の申請)を始める。その後、関東と新潟の7箇所の自立生活センターから講師に自宅に来てもらい、全7回の自立生活プログラムも受講した。
重度訪問介護の申請については、町役場に(介護保険と居宅介護のみで対応可能・重度訪問介護の事業所もないと)返事を伸ばし続けられた事で、全国団体のすすめで全国からカンパを募集し、弁護士団を結成した。
重度訪問介護の支給決定まで1年以上の経過はさゆりさんにとって大変辛い事であったが、交渉の為のサービス等利用計画案の原案などの文書作成は意外に好きで仕事のようで楽しく感じる事もあったと語る。また、出来ない事もあって呆れられるのでは?との心配もあったが、根気強くアドバイス、支援をしてくれた全国広域協会、地元にてコーディネート兼、バックアップしてくれたY氏の尽力のおかげだと実感している。
平行して自立の為、自立生活プログラム(ILP)(障害者が自立生活に必要な心構えや技術を)を受講する。
Q:自立生活プログラム(ILP)はどうでしたか?何人何回受講しましたか?
A:7人7回程。講師の方がはるばる信濃町まで来てくださいました。
Q:どういった内容の講座で、印象深いもの、意識の変化などお教え下さい。
A:最初に受講したK氏の「心がまえについて」の話が良かった。ヘルパーさんとの関わり方など多方面に細かい気配りの必要性と実質的な雇用主と同じになることを自覚しました。
「指示の出し方」「お金の管理」「面接の仕方」など、受ける前には何も考えられなかったことが、具体性を持ってイメージできました。
自立に伴う責任として、まずはヘルパーさんに対し、言葉の足りないところから、不満が生まれると思うので、指示の出し方など自分の責任だと思う事にしました。
以下行政交渉経緯
・2016年(平成28年)10月
本人が役所に障害者総合支援法の重度訪問介護の支給を求める書面・電子メール等を度々送る。
・2017年(平成29年)2月
本人が役所の所定の用紙で重度訪問介護の支給申請書を提出。
・2017年2月24日
信濃町は拒否回答
・2017年4月
弁護団立ち上げ
・2017年5月31日
1日24時間介護(月802時間)の必要性を詳論する申請書補充書を弁護団が信濃町に提出。
・2016年10月~2018年2月
1年4カ月間もの間、信濃町が本件放置
提訴以降の経過
1 2018年3月1日
長野地裁に本案訴訟及び仮の義務付申立て 東京で記者会見
2 2018年3月6日
信濃町から月294時間の重度訪問介護支給決定
(802-294=508時間の拒否処分)
3 2018年4月25日
長野地裁 仮の義務付け却下決定
本案訴訟及び仮の義務付け申立の根拠が、「行政庁の不作為=放置」であるため、3月6日決定が出たことにより、訴訟類型が変わってくるため、仮の義務付け却下。
4 2018年4月27日
訴えの変更申立
本案訴訟の根拠を、不作為→2018年3月6日付294時間処分(508時間却下決定)に対する取消訴訟に変更する手続き。
5 2018年5月11日
信濃町側 棄却求める
1日9時間の介護決定を取り消し、24時間を請求。町側は1日9時間の介護が受けら れれば(家族らに)無理のかからない介護が可能とする。
6 2018年6月下旬
信濃町内の別の家で一人暮らしを7月初旬からする旨と人工呼吸器を装着していない32名の全国の障害者の1日24時間の重度訪問介護の支給決定書等を証拠として裁判所に提出。
7 2018年7月4日
裁判を取り下げ
町が7月1日に月744時間(1日24時間)の支給決定を2月にさかのぼって決定し、小林さんは常時ヘルパー支援を受けた生活が可能となり、裁判を取り下げる。
3. 自立生活に至るまで
2016年4月、裁判開始前後より、(信濃町には重度介護訪問サービスを取り扱う事業所は無く自薦登録をする為)ヘルパーさんの募集を始める。裁判で24時間の支給決定が遡って決定された場合に、重度訪問ヘルパーが実際に24時間サービス提供していないと意味がないため、制度の支給決定を待たずに24時間自薦ヘルパー体制を目指す。
具体的には全国広域協会の負担で常勤ヘルパー5人体制に向け求人していくことにする。全国広域協会より、求人広告の為のアドバイスを受け、求人誌3誌、ハローワーク、インターネット求人に無資格未経験者むけの求人広告を出す。
3ヶ月で30名程の応募があり、その都度面接し、常勤4名、またY氏の紹介にて、非常勤2名の確保に至る。無資格ヘルパーは東京の広域協会で重度訪問介護ヘルパー研修を受講した。
住居確保も困難を極めたが、Y氏の粘り強い協力にて、運良くも障害について理解の深い大家さんに出会い、バリアフリーに配慮された一軒家に転居する事ができた。
4. 現在の様子
常勤4名+非常勤2名を自薦ヘルパーとして、全国広域協会の関係ヘルパー事業所へ登録。
自立生活開始、1か月目の現在のところは同曜日のローテーションではなく、ヘルパーの出勤希望を聞き、所定労働時間32時間を基本にシフトを組んでいる。時には夜勤が続くなど、課題が残る。
ある週の介護シフト一例
(この他、1日数回のトイレ時に地元介護事業所が30分の身体介護で入ることで2人体制に)
平日週4回(日2回)訪看さんの排泄介助(2名が必要)補助を今後どのようにするかも課題の1つである。しかしながら、優秀なスタッフに恵まれ、そばにいてくれる安心感や、自由にパソコンをやりながら音楽が聞けるなど、楽しみや嬉しさをかみしめながら、指示等、多くて嫌な思いをさせていないかと日々反省する毎日を過ごしているとのこと。
今後は外出など、少しずつしていき、同じ当事者にとって何かを発信できたらとの希望も生まれ、張りのある生活を送っている。
毎週1回水曜日にリハビリを受けています。
新人のヘルパーさんも一生懸命文字盤を使ってコミュニケーションをとってくれます。
自立生活前より支援するY氏。シフト管理など小林さんの生活のコーディネイト役。
全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病のALS=筋萎縮性側索硬化症の女性が、自宅のある信濃町に対し24時間の常時介護を求めていた裁判は、女性が1人暮らしを始めるのに伴って24時間の介護を受けられることになったため、女性は訴えを取り下げました。
この裁判は、難病のALS=筋萎縮性側索硬化症の患者で、信濃町に住む小林さゆりさん(54)が、町から提示された1日9時間ほどの介護では日常生活を送れないとして、町を相手取り24時間の介護の提供を求めていたものです。
信濃町によりますと、小林さんが今月から1人暮らしを始めたのに伴って、町の基準に照らして24時間の常時介護を提供することを決めたということです。
このため、小林さんは20日、長野県庁で記者会見し、長野地方裁判所に訴えを取り下げる手続きを取ったと発表しました。
会見で、小林さんは「1日24時間の常時介護を決定していただいて感謝しています」などと涙ながらに話しました。
一方、信濃町の松木哲也住民福祉課長は「福祉サービスを必要とする方々が、町の判断で適切なサービスが受けられるように進めていきます」としています。
毎日新聞 2018年7月21日
毎日新聞 2018年7月20日 19時07分 配信
神経が侵されて筋肉が徐々に動かなくなる難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う長野県信濃町の小林さゆりさん(54)が、町に24時間体制の介護提供を求め長野地裁に提訴していた訴訟を巡り、町は判決を前に1日24時間(月744時間)の重度訪問介護支給を決定した。そのため、原告側は20日、訴えを取り下げ、町側も同意して裁判は終結した。
原告側、訴え取り下げ
訴訟で町側は、月294時間(1日9時間半)の重度訪問介護が妥当として、争う姿勢を示していた。しかし、6月に原告との協議で、小林さんが1人暮らしをすると伝えられた。生活状況が変化し、介護する家族がいないため、町は24時間介護の支給を決めたという。
小林さんは、2007年にALSと診断され寝たきりの状態。手足はほとんど動かせず、発声もできない。家族3人暮らしだったが母親は高齢で、弟も仕事で介護が難しい状況だった。母親の介護を受けている時に転倒し、小林さんがけがをしたこともあった。迷惑をかけないために今月から1人暮らしを始めることにしたという。
5月の第1回口頭弁論で、小林さんは車いすに乗りヘルパーに介助されながら裁判所に出廷。50音が記載された透明の文字盤を目線やまばたきで指して、ヘルパーが代読して意見陳述した。【島袋太輔】
信濃毎日 2018年7月21日
ALS女性 24時間介護に 信濃町が決定
難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患う上水内郡信濃町の小林さゆりさん(54)が、障害者総合支援法に基づく重度訪問介護を24時間態勢で受けられるよう町に求めて長野地裁に起こした訴訟で、小林さんは20日、訴訟を取り下げた。町が24時間対応を決めたため。
寝たきりで会話もできない小林さんは、同居している母親(80)が病気がちなため町に24時間の訪問介護を求めてきたが決定されない状態が続き、これを違法として3月に提訴。その後、町は1日9時間の訪問介護を決定したが、訴訟では争う姿勢を示していた。
小林さんの弁護団によると、小林さんは6月、母親と離れて暮らす意向を町に伝達。これを受けて町は7月1日、24時間の訪問を決めた。小林さんは6日から一人暮らしを始めている。町は「生活状況が大きく変わるため」と説明。今後、同様の申請があった場合は「家庭や本人の状況を見て適したサービスを提供していきたい」としている。
この日、県庁で記者会見した小林さんは支援者を通じ、「私の状態を理解したスタッフがそばにいてくれる安心感は言葉にならない」とコメントした。
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- 2022-03-25総合支援法重度訪問介護の入院中利用について・厚労省が主管課長会議資料をWEBに掲載しました